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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1024号 判決

控訴人

東商事株式会社

右代表者

川村正

右訴訟代理人

山下光

被控訴人

有限会社東横建物

右代表者

中楯功男

右訴訟代理人

森本清一

主文

原判決を取消す。

被控訴人は、控訴人に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和五一年五月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一控訴人主張の請求の原因第一項のうち保証金の金額の点を除くその余の事実、同第二項のうち昭和四九年四月一五日の更新が法定更新であるとの点を除くその余の事実、同第三項の事実及び同第五項のうち控訴人が昭和五一年四月末日被控訴人に対して賃借物件を明渡した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二本件保証金の金額及び昭和四九年四月一五日における本件賃貸借契約の更新が合意によるものであるかどうかについての当裁判所の判断は、原判決理由説示(原判決一〇枚目表一行目から同裏八行目まで)と同一であるから、それをここに引用する。

昭和四四年四月一五日合意により更新された請求の原因第一項記載の建物部分を目的とする賃貸借契約(以下「従前の賃貸借契約」という。)は、同四九年四月一四日終了し翌一五日同契約と同一の条件をもつて更に賃貸借をしたものとみなされることになるが、期間の点については、更新後の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)は期間の定めのない契約になつたものというべきである。

ところで、〈証拠〉によれば、従前の賃貸借契約について作成された契約書の第一七条に「保証金を返戻する場合、賃借人において延滞賃料または賃借人の責に帰すべき損害金があるときは、これを保証金より控除してその残額のみを返戻すれば足るものとする。」との規定があることが認められ、また、右契約書の第一六条に「保証金は契約期間中は返戻しないものとし、賃借物件を明渡す場合、左の要領により返戻するものとする。一 賃借期間の満了により明渡しをなすときは、明渡しの日から向う一ケ年後に半額、その後向う一ケ年後に半額を各返戻する。二 第一二条(解約の申入)により明渡しをなすときは、右契約の日より向う六ケ年後に半額、その向う一ケ年後に半額を各返戻する。三 第一一条(契約解除)により明渡しをなすときは、明渡しの日より向う六ケ年後に半額、その向う満一ケ年後に半額を各返戻する。」との規定があることについては、当事者間に争いがない。

右認定の事実及び当事者間に争いがない事実によれば、本件保証金は、従前の賃貸借契約に関し、賃借人である控訴人が賃貸人である被控訴人に対し負担する債務を担保することを目的とするとともに、従前の賃貸借契約が終了し、その目的物が賃貸人である被控訴人に返還された後も、被控訴人が一定期間これを留保することができるのであるから、敷金の性質及び貸金類似の性質を兼有するものと解するのが相当である。

ところで、従前の賃貸借契約の期間が満了した際、いわゆる法定更新により更に賃貸借契約をしたものとみなされたことは前記のとおりであるが、その際、控訴人・被控訴人間に、本件保証金の返還時期について特別の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はなく、また、本件保証金の性質にかんがみ、本件賃貸借契約が成立した際、右合意がなくとも、当然に、本件保証金の返還時期について従前の賃貸借契約においてされたのと同一の約定がされたものと解することは相当でないというべきである。けだし、本件保証金のような貸金類似の金員の返還時期を当該金員の交付者の意思に反して延期する公益上の必要性が認められないからである。

そうであるとすれば、前記契約書の第一六条二号の規定により、本件保証金の半額の返還時期は従前の賃貸借契約成立の日である昭和四四年四月一五日から六年後の同五〇年四月一五日、その保証金の残余の半額の返還時期は同日から一年後の同五一年四月一五日到来するものというべきである。

しかしながら、本件保証金が敷金の性質をも有することは前記のとおりであり、従前の賃貸借契約成立の際定められた本件保証金の返還に関する約定のうち同保証金の敷金としての性質に着目してされたものは、本件賃貸借契約成立の際、同契約の条件として定められたものと解するのが相当であるから、本件保証金の返還時期は、結局、控訴人の解約申入により本件賃貸借契約が終了し、控訴人が被控訴人に本件建物を明渡した昭和五一年四月末日到来したものというべきである。したがつて、被控訴人は、控訴人に対し、和五一年四月末日限り本件保証金を返還する義務を負うものというべきである。

四よつて、控訴人が被控訴人に対し本件保証金の半額一〇〇万円及びこれに対する期限後の昭和五一年五月一日から完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由があるから、これを認容すべきであり、これと異なる原判決は不当であるから、これを取消して控訴人の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八九条、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(枡田文郎 齋藤次郎 山田忠治)

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